河原 豊先生
合成化学物質を使用しないエコ素材を開発する。
現在は、桑の葉の可能性を探究中。
河原 豊
Yutaka KAWAHARA
現代生活学科
専門分野?専攻
環境材料?エネルギー論
Yutaka KAWAHARA
現代生活学科
専門分野?専攻
環境材料?エネルギー論
〔プロフィール〕東京工業大学工学部有機材料工学科卒、同大学大学院理工学研究科有機材料工学専攻博士前期課程修了。日本鋼管株式会社中央研究所を経て、東京都立繊維工業試験場勤務の間、社会人コースドクター学生として東京工業大学大学院理工学研究科有機材料工学専攻に入学し博士後期課程修了。京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科Dマル合助教授、群馬大学工学部教授を経て、2025年4月より現職。
「3つのポイントで分かる!」この記事の内容
- 生物由来の材料を使ったエコ素材の開発研究。
- 桑の葉に含まれる機能物質を検討し、哺乳類の代謝機能改善に結びつける提案を目指す。
- 環境問題を科学的に考察し、学生には日常に潜む危険を回避する「使える知識」を与えたい。
知的好奇心を持ち続けた結果、研究職に

民間企業や公立の繊維試験場、大学。約40年、研究生活を続けています。はじめから研究者の道を目指していたわけではないのですが、あれが知りたい、これも知りたいと、知的好奇心を持ち続け、気づいたら今に至る、という感じでしょうか?
大学院を修了後、最初に就職した会社では炭素繊維の開発に携わりました。3年ほどで会社が望む成果を達成したのを機に転職。八王子にある繊維の試験場で、地元中小企業の育成に携わりました。母校の大学院に社会人入学枠ができたことを利用し、第一号として入学、博士の学位を取得しました。それを機に大学で教える機会をいただき、実践女子大学は3校目になります。教育者としての仕事をしながらも、研究から離れたことはありません。いくつになっても、「知りたい」気持ちはなくなりませんから。
人脈を活用して、人にも環境にも優しい、エコ素材の研究開発に携わる

近年は動植物の産生物からエコ素材を開発する研究を行っています。人類は長い歴史の中で、生物由来材料を巧みに生活に利用してきました。そこで、合成化学物質を使用しなくても「水と熱と生物の産出物だけで使える材料が開発できないか」との思いで取り組んでいます。水と生物材料のみから作られた素材なら、化学物質の影響を心配せずに済みます。人に優しく、安全な材料をこれからも探求し続けていきたいと思っています。
研究というと一人で黙々と実験を繰り返すイメージを持っている人もいるかもしれませんが、勇気をもって人脈を広げることも勘違いや見落としを防ぎ研究精度を高めるために大切と思います。
桑の葉の可能性と危険性を追求する

最近、特に力を入れているのが、カイコの餌となる桑の葉の調査です。桑の葉で飼育されたカイコは、仮死状態にしても覚醒して平常の代謝に戻ることができます。桑の葉には代謝を維持?回復させる物質が存在していると考えられるため、研究を始めました。カイコの代謝機能が改善するのなら、もしかしたら哺乳類の代謝改善にも有効である可能性があるので、研究にはやりがいがあります。桑の木には多くの品種が存在するため、様々な樹種について検討する必要があります。栽培環境にも影響を受けるため、検討課題は多く苦労もありますが、気長に時間をかけて追求していきたいと思っています。
一方で桑の葉にはシュウ酸カルシウムという毒性のある物質も蓄積されているので、そこも検討の必要があると考えています。カイコはシュウ酸カルシウムが含まれている葉脈を避けて食べる上に、「胃酸」がないなど人間と違った消化システムを持っているために問題にならないのですが、人間では大量に摂取すると健康被害を及ぼす可能性があるからです。栽培法によっても桑の葉に含まれる成分は変化するので、シュウ酸カルシウムフリーの葉を作ることができないかも研究中です。成功すれば、桑の葉の新たな活用法を提案できるのではないかと考えています。
学生には、健康で楽しく暮らすための「使える知識」を与えたい

科学の進歩は人間の暮らしを便利に、豊かにしてくれました。その一方で、人間が作り出した物質や製品には危険が潜んでいることもあります。ナノテクノロジーは医療や産業に多大な貢献をしてきましたが、ナノマテリアルは肌などから吸収されると細胞を傷つけます。マーガリンなどに含まれているトランス脂肪酸の危険性は、国際レベルで大きな問題となっています。授業では環境問題や、こうした身近に潜む危険を科学的な視点から解説し、学生に危険を回避する方法を考えてもらえるような取組をしています。
ゼミでは環境問題から少し離れて、生活に潤いが生まれるようなグッズの開発を提案し、製作を指導しています。たとえば紫外線よけ帽子や天然繊維グッズ、木製楽器の改造など。身体に優しく、触ると快適なグッズは、生活を楽しく、豊かにしてくれますよね。危険を回避し人生を楽しむために役立つ「使える知識」を学生に与えられるよう、日々の授業ゼミに取り組んでいきたいと思っています。